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1987年に発表された、胎児期被曝と知能発現の関係に関する「亀山論文」を抜粋掲示する。

カテゴリ : 未分類

  放射線胎児被曝 と大脳発達障害 亀山義郎 名古屋大学環境医学研究所
  https://www.jstage.jst.go.jp/article/radioisotopes1952/36/10/36_10_542/_pdf

 これは、私が、何度も繰り返し掲示してきた放射線影響研究所による胎児被曝のデータを評価したものである。
 放影研は、広島・長崎の被害影響を調査した米軍ABCC研究所の後継機関であり、米政府と日本政府が合同運営してきた。
  https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%94%BE%E5%B0%84%E7%B7%9A%E5%BD%B1%E9%9F%BF%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%89%80

 放影研が公開しているデータで、もっとも重要なものは、以下の、胎児被曝データである。
  https://www.rerf.or.jp/programs/roadmap/health_effects/uteroexp/physment/

 以下引用
 被爆に関連した小頭症および知的障害の発生増加は、1950年代後半に既に明らかにされていた。線量が0.005Gy未満と推定された胎内被爆者においては、1,068人中9人(0.8%)に重度の知的障害が見いだされたのに対し、線量が0.005Gy以上と推定された胎内被爆者においては、476人中21人(4.4%)が重度の知的障害と診断された。

 この重度知的障害が発生する確率は、被曝線量および被爆時の胎齢(特に発達の著しい段階)と強い関係がある。知的障害の過剰発生は、受胎後8-15週で被爆した人に特に顕著であり、受胎後16-25週で被爆した人ではそれよりも少なかった。

 一方、受胎後0-7週、または26-40週で被爆した人では全く見られなかった(図1)。また、重度の知的障害に至らない場合でも、受胎後8-25週で被爆した人に、線量の増加に伴う学業成績とIQ指数の低下が認められ(図2)、発作性疾患の発生増加も明らかになった。
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 引用以上

 この論文データは、フクイチ事故後の2015年頃に改竄されて、それまで分かりやすかった被曝線量と知的障害の発現グラフが、実に分かりにくいものに変更された。

 上の文章が、何を意味しているか普通の知識で分かるように書き直すと、「線量が0.005グレイ未満と推定された胎児では、0.8%に、重度知的障害が見いだされた」と書かれている。

 0.005Gyというのは現在のシーベルト換算では、0.005Sv=5mSvである。5ミリシーベルトという被曝量は、毎時ではなく、累積被曝量が5ミリ=5000マイクロシーベルトということである。
 福島市や郡山市内で、安倍政権が定めた年間20ミリシーベルトを毎時に換算すると、毎時2.3マイクロシーベルトになるので、この場所に生活すると、日あたり55.2マイクロシーベルト、約90日、三ヶ月程度で、累積5000マイクロシーベルトに達する。

 つまり、福島県内の重汚染地で妊婦が三ヶ月生活すると、0.005Gyに達し、胎児の0.8%が重度知的障害者になると言っているわけだ。
 さらに、被曝線量が0.005Gy以上の胎児では、実に4.4%に重度知的障害が発現したと書かれている。
 安倍政権の定めた年間20ミリシーベルトの土地で、妊婦が三ヶ月以上生活すれば、4%以上の胎児が重度知的障害(ダウン症や小頭症など)になる可能性がある。

 これは恐ろしすぎるデータであり、このABCCデータがあるにも関わらず、日本政府が年間被曝許容限度を20ミリシーベルト(0.02Gy)に定めたということは、これは、もはやジェノサイド犯罪以外のなにものでもないのである。
 そこで、政権は、このデータがアテにならない参考資料にすぎないと言っているわけだが、このデータを、まともに真正面から評価した論文は、ほとんどなく、これから紹介する亀山論文が、今のところ、ネット上で確認できる唯一のものである。

 現実問題として、被曝障害の隠蔽に走っていると評される産科学会ですら、福島では50ミリシーベルト以上の胎児被曝が発生したことを認めている。
 http://www.jsog.or.jp/news/pdf/announce_20110316.pdf

 長いのでエッセンスだけ欲しい方は3.と4だけを読んでください。
 亀山氏は、どちらかといえば、閾値を容認することから分かるように、原子力産業への忖度派学者だが、1987年当時は、チェルノブイリ事故の翌年であり、ソ連核開発への批判も含んだ内容が含まれている。重箱の隅をつつくようなイチャモンにはうんざりするが……。
 しかし、今では、まず絶対に表に出てこない、被曝とIQの関係に触れているので、ぜひ読んでください。

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 以下、亀山論文からの引用

発生,発育過程の胎児大脳が他の胎児器管・組織 に比べ放射線感受性が高いことは,被 曝による代表的奇形がヒト,動 物 のいずれも小頭症である事実が示すとおりである。

 ヒトの胎児被曝で古くから注目されて来たのは,広島,長崎の原爆子宮内被曝による小頭症と精神遅滞 の発現である。
 最近,放射線影響研究所のOtake and Schull(1983,1984)は 原爆子宮内被曝のデータの再評価を行い,放 射線影響では小頭症より精神遅滞の方が重要で,大脳皮質の発生が活発な胎生8-15週の被曝によって重度精神遅滞が高率に発現し,その発現率は統計学的にしきい値のない線量・反応関係を示すと報告した。

  この報告は放射線防護の専門家の間に大きな反響をもたらし,国際放射線防護委員会(以下ICRPと略す)と国連科学委員会(以下UNSCEARと略す)は 胎児被曝を重点検討課題とし,1986年にそれぞれレポートを公表した。

 上記の二つの国際機関のレポートは,同じ問題意識で同じ時期に同じ文献資料を用いて論述しているため,脳発達障害に関する内容はほぼ共通している。UNSCEAR-Report(1986)の一章 “Biological Effects ofPrenatal Irradiation”では,1977年以降の文献を収集し,げっ歯類の実験動物の知見は質的にはヒトに外挿できるとの立場で,動物データを広くレピューしている。

 (中略)

 2.脳の発生とその異常
2・1脳発生異常の奇形学的特徴
 脳を構成する主要成分のニューロンは,それらの局在する部位によってそれぞれ異な った機能を持ち,しかもそれらが相互に連動して多様な中枢機能を現わす点で,単一の器官 として最も複雑な構造体とみなすことができる。このため,細胞の増生,生理的細胞 死,遊走,配列,細胞間連絡等の発生事象が時間的にも空間的にも厳密に進行することが要求される。
 外因によって脳発生異常が起こり易い理由として,上述の発生の複雑さに加えて,つぎの三つの特徴をあげることができる。
(a) 発生異常の感受期が長い:他の器官に比べ中枢神経系は最も早く発生を開始しなが ら成熟に至る期間が長い。とくに脳では組織発生の期間が長いため,感受期はヒトではほぼ全胎生期間にわたる。

(b)未分化神経細胞は外因に対し障害感受性が高い:増生中の未分化細胞は,放射線,重金属,微生物感染,アルキル化剤,アルコール等多くの環境因子に感受性が高い。
しかも他の器管原基に障害を及ぼさぬ低量,低濃度で細胞障害作用を現わす点に注目する必要がある。

(c)生後に遅発性に多彩な非可逆 的機能欠陥をもたらす:脳の各部位を構成するニューロンはそれぞれ異なった時期に産生され,それらは分化した後は再生しない。
このため胎生期のある特定の時期の侵襲は脳の限られた構造単位を選択的に障害し,通常の形態学的検査では発生異常を捉え難い状態でも,しばしば重篤な機能欠陥を露呈す る。

2・2脳 の器官発生とその障害
器官発生は神経外胚葉から成る神経板が神経管を形成し,頭部神経管が前脳胞,中脳胞,菱 脳胞の三つの脳胞に分かれ,頭端の前脳胞が左右二つの終脳に分割し,これが大脳の原基 となる。

 脳の器官発生障害の最初の臨界期は頭部神経管の閉鎖時期(ヒト胎生3週)で,閉鎖障害 によって無脳(症),脳 髄膜ヘルニアが成立する。
 第2の臨界期は前脳胞の分割する時期(ヒ ト胎生4週)で,分割の障害によって単前脳holoprosencephalyが成立する。
これらの脳奇形は出生後長期間生存できないものが多い。

2・2・1器 官発生障害による脳奇形の奇形学的特徴
(a)奇形成立の感受期が短く,時期特異性が強い:神経管の閉鎖の開始より頭部と尾部で完全に閉鎖が完了するまでの時間は,マウス,ラット1日程度,ハムスター0.5日,ヒトでは数日以内とみなされる。
 前脳胞より終脳形成は,マウス,ラット1日程度,ヒトではやはり数日以内と推定される。 したがって,催奇形因子がこの期間を外れて作用した場合は奇形は成立しない。

(b)組織の障害感受性は高いが修復能力も強い:器官発生の段階の脳は未分化神経系細胞のみで構成されているため,催奇形因子によって容易に致死的損傷を受けるが,損傷を免れた細胞の増生による修復も活発に起こる。
 すなわち催奇形因子の侵襲によってすべての胎芽は組織損傷を受けるが,臨界期を外れて侵襲が及んだ胎芽では損傷が修復されて異常が残 らぬため,終局的な奇形の発現にはall or noneの 傾向がある。

2・3大 脳の組織発生とその障害
 器官発生の障害による奇形を持った胎児は出生前に死亡する場合が多く,出生後も長期生存は期待できないため,臨床医学の対象となる割合が組織発生異常を持つ患児に比べ低い。組織発生段階に起こる障害は形態異常は軽いが機能的欠陥は強く,しかも生存率は比
較的高い。

 このため,臨床的に問題になる外 因性脳発達障害の主要部分は組織発生障害によるとみてよい。
 大脳外套の組織発生は,脳室壁での未分化細胞の分裂,分裂を終わった未熟ニューロンの皮質領域への遊走,皮質原基の形成,ニューロン間の線維連絡,シナプス形成,グリア増生,白質の分化,ミエリン形成の過程を経て行われる。

 終脳形成後なおしばらくは脳実質は未分化増生細胞のみから構成されているが,ヒト胎生6-7週に一部の細胞は分裂を完了して遊走を開始し,胎生7週には皮質原基の形成が始まる。脳室壁における皮質ニューロンの産生は胎生8-15週に最も活発で,新皮質ニューロンは胎生20週頃には ほぼ産生を完了する。

 新皮質領域への遊走には二つの波があり,第1波は胎生7-10週,第2波は第1波より大きく胎生11-16週に起こる。
 ニューロンの遊走による皮質の構築は,後から遊走して来た細胞が先着細胞の上層に位置するいわゆるinside-outの順序で厳密な時間的スケジュールで行われる。

 形成された大脳新皮質では,ニューロンの発育,樹状突起の分枝,シナプス形成,グリア増 生,血管網の発育等が進行し,これらの活発な新生児期はvulnerable periodと よばれ,外 的侵襲によって脳発育障害と破壊性病変が起こり易い。

 胎生期の催奇形処理による実験動物の大脳組織発生障害の主体は,未分化細胞の致死,増 生の障害による構成ニューロンの不足および未熟ニューロンの遊走障害による皮質構築 の乱れで,代表的発生異常は奇形性水頭dysgenetic hydrocephaly,小頭,脳梁欠損,灰白質異所形成,皮質層構築異常,脳回異常である。

 大脳の組織発生障害に関連する最近の神経生物学的研究として注目されるのは,ニューロンの生理的細胞死と細胞接着因子(CAM)である。一般に発生過程の器官では細胞の過剰産生と選択的致死が起こることが実験的に知られている。
中枢神経系においても,標的細胞への過剰な数の線維連絡や誤った連絡が起こった場合にそのニューロンを選択的に死滅除去させて,適正な細胞に適正な数で連絡したニューロンのみを残す内在性のメカニズムが働いている。

 これは外因性細胞死の役割を考える場合に重要で,正常の脳の発生過程に起こる大量の生理的細胞死に比べれば外因によるわずかの細胞死はそれほど大きな役割を持たぬとの見方も出てくる。
 しかし,外因性の細胞死が生理的細胞死の内在的プログラムを攪乱する可能性も無視 できない。

 ニューロンの遊走が受動的な位置移動でなく,能動的な細胞運動で,細胞表面あるいは細胞間物質が関連していることが知られている。
 Edelman(1985)はニューロン相互認識に関わるN-CAM,ニューロンとグリアの結合に関わるneural-glial CAMの役割を報告しており,これら因子についての研究は脳の組織発生とその異常の機序に新しい展開をもたらすと期待される。

2・3・1大 脳の組織発生障害の奇形学的特徴
(a)感受期が長く時期特異性が強くない:大脳の組織発生には長い期間を要し,その主要期間を通じて障害感受性の高い未分化細胞が存在するため,この期間のいずれの時期に侵襲が及んでも,程度と部位に違いはあっても,増生や遊走が障害されて発生異常がもたらされ る。

(b)障害感受性は器官発生段階に比べ低いが,修復能力も低い。組織発生の過程には感受性の低い分化した細胞が存在し,その数が増えて行くため,器官レベルの障害感受性は当然低下して行く。
しかし,増生細胞の数もその増生能も低下するため,組織損傷の修復力も弱く,細胞数の不足,配列の異常などの組織レベルの障害が残り易い。

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3.放射線による大脳発達障害

3・1動物実験のヒトへの外挿の難しさ

 放射線子宮内被曝のヒト症例が40年以上前の医療被曝と原爆被曝に限られている現状 では,実験的研究の役割が大きいが,ヒトのリスク推定の資料とするには難問が山積している。
 第1の基本的難問は放射線による脳発生異常のメカニズムで,ニューロンの遊走障害や遅発性のニューロンの発育障害などの非致死性変化が,放射線の直接作用によるものか,細胞死の続発性変化かは未解決である。

  また脳の正常発生 と正常機能の発現に不可欠な生理的細胞死が放射線によって影響
を受けるか否かもまったく不明である。ヒトと動物の胎児の障害感受性の比較推定を困難にする難関の一つは,脳発生の各事象の時間的経過の違いである。マウス,ラットで1日間で起こる発生事象がヒトでは数日以上要することが多いが,この時間のスケールをその
まま細胞増生速度などに単純にあてはめることはできない。

 個々の発生事象の進行度の細胞レベルでの比較が必要であるが,未だ手はつけられていない。
 ヒトで問題となっている放射線誘発精神遅滞については,ヒトと実験動物の間の大脳の系統発生的隔たりが大きく,しかも動物では大脳の構造と機能および行動との関連についての知見が不十分な現状では,実験動物をモデルとすることは無理であることはいうまでもない。

しかし,ヒト精神機能の主座をなす大脳皮質の発生は,その形態学的特徴と発生過程は基本的に哺乳動物に共通である。このため,ヒトと実験動物の子宮内被曝児に共通する形態学的発生異常については,実験知見はヒト大脳発達障害の理解に有用と考える。

3・2実験的研究
 UNSCEAR-1986Reportが1977年以降の文献を広範に収集し紹介しているので詳細は省略し,本項ではヒト小頭と精神遅滞に関連する実験成績の概略を紹介する。

 ヒト重度精神遅滞児の剖検例と実験動物の外因性脳組織発生異常に共通してみられる代表的な大脳皮質の形態学的変化 は,
(1)皮質細胞数の不足(強度であれば外形で小頭),
(2)層 構築の不整,灰白質異所形成,
(3)ニューロンの発育不全,樹状突起の分枝不足,
(4)樹状突起棘の形,分布の異常,である。

 原爆例を含むヒト放射線子宮内被 曝児の剖検例でも,これらのいくつかが報告されている。

  サルの実験では,胎生75日(ヒト胎生19週に相当)に γ線2.0Gyを被曝したリスザルに,皮質の厚さの減少,皮質細胞数の不足,樹状突起の分枝不足,樹状突起棘の数の減少が報告されている。
 
 このため,上述の大脳皮質の形態学的変化を量的指としてどの発生段階が最も感受性が高いかを明らかにし,その発生段階での線量効果を調べることがヒトのリスク評価の質的資料として価値があると考える。

3・2・1大脳皮質発生障害の最高感受期
 (a)皮質細胞数の不足:小頭に代表される大脳外套の発生異常は感受期が長い特徴があ るが,この期間の中でとくに皮質細胞数の不足(皮質厚さ×皮質細胞密度の計測による)を 起こし易い胎齢を0.5-1.0GyのX線を被曝したマウスについて調べたところ,最高感受期 は胎生13日であった。

被曝直後の脳室壁の未分化細胞の細胞死の頻度と分裂遅延時間を0.25Gyを被曝 したマ ウス胎仔で調べたところ,やはり最高感受期は胎生13日であった。
 すなわち,この胎齢の被曝による未分化細胞の細胞死の増加が,生涯残る皮質細胞数の不足をもたらす主因であるとみなすことができた。

  ラットでは最高感受期は胎生15日,モルモットでは胎生21日であった。
 これらの成績から,放射線小頭症には明瞭な最高感受期が存在し,その時期は,胎仔大脳の脳室壁の未分化細胞からニューロンの産生が活発に起こり,大脳新皮質原基の形成が始まる発生段階に一致し,この発生段階の未分化神経系細胞が放射線致死感受性が最も高いことが明らかになった。

(b)皮質層構築の乱れ:1.0Gy以上の高線量被曝がニューロンの遊走障害による灰白質異所形成を起こすことは知られているが,radioautoradiographyによる組織学的観察より微細 な皮質構築の乱れは0.25Gyの低線量でも起こり,その高感受期はマウス胎生13-15日であ った。

(c)皮質ニューロンの樹状突起の不足:胎生13-17日に0.1-1.0GyのX線を単回被曝した マウスの新皮質第5層の錐体細胞の樹状突起の分枝数を計測したところ,分枝数の不足 は胎生13-15日被曝仔に明瞭で,皮質細胞数の不足(未分化細胞の致死)に比ベて感受性が高く,感受期が長く続く点が注目される。

 ヒト胎児大脳では,未分化細胞から皮質ニューロンへの分化と皮質領域への遊走は胎生8週に始まり,ニューロンの産生は胎15週頃まで活発であることが知られている。

 ヒト原爆小頭症の最高感受期は胎生8-9週で,この時期の大脳の発生段階はマウス胎生13日に相当する。
 小頭の最高感受期が皮質ニューロンの産生が始まって間もない時期に一致する点は,実験動物の知見とヒト症例は よく一致している。

 原爆子宮内被曝による重度精神遅滞の高感受期は胎生8-15週で,小頭の高感受期と同 じ時期に始まって長く続いている。マウス皮質ニューロンの樹状突起の発育障害の知見は,高感受期と大脳機能に関連する形態学的変化の点において,ヒト知見に対応しているとみなすことができる。

3・2・2大脳皮質発生障害の線量効果
(a)被曝直後の細胞死と細胞周期の変化:マウスの最高感受期の胎生13日に0.03-0.25GyのX線を被曝した胎仔大脳の未分化細胞の細胞死の頻度は0.03Gyと0.25Gyの間では直線性を示し,同じ線量を被曝したラット新生仔の小脳外顆粒層の未分化細胞の細胞死の線量-反応関係にきわめてよく似ている。

 また,マウス胎生13日に0.1-1.5Gyを被曝した胎仔大脳の未分化細胞の細胞周期の変動は,G2期の延長に明瞭な線量効果関係が見られている。
 未分化神経系細胞の細胞死が被曝5-6時間をピークとして起こり,0.03Gyの低線量で増加する点は,胎児大脳の際立った高感受性を示すもので,分割照射の実験によりこれらの細胞には放射線障害の回復がみられないことが示唆されている。
 さらに,これら未分化細胞の致死感受性はS期,G2期のみでなく,G1期あるいはG0期 も高いことを示唆する成績も得られている。

(b)出生後の成仔にみられる大脳発生障害:高感受期の胎生13-15日に被曝したマウスの新皮質第5層ニューロンの樹状突起の分枝数の不足をもたらす最低線量は0.1Gyと0.25Gyの間にあり,皮質細胞の不足を検出できる最低線量は0.25Gyと0.5Gyの間にある。
 ほぼ同様のマウスの実験条件で行われた外国の報告では,皮質と脳梁の厚さの減少は0.25Gy以上で直線性の線量効果関係を示し,皮質より脳梁の厚さの減少が著明と報告されている,また,皮質ニューロンの先端樹状突起の走行の乱れが,0.125Gy以上でやはり直線性の線量関係を示すデータが得られている。

 モルモットでは,小頭の最高感受期の胎生21日のγ線0.1-1.0Gyの被曝によって,脳重量の低下に直線性の線量関係が見られている。
 動物種によって放射線誘発大脳発生障害の高感度指標は異なるが,0.1-0.25Gyレベルの低線量によって脳機能に関わる構造の発育が障害される実験データは興味深い。

 胎仔大脳の未分化細胞の高い致死感受性は放射線生物学の重要なテーマであるが,リ スク推定の基礎資料として有用な実験知見は,被曝直後の細胞死によってどの脳の部位のどれだけの皮質ニューロンが不足すれば生後の大脳機能に永続的な障害がもたらされるかであろう。

 前章で述べた通り,哺乳動物では胎生期に過剰なニューロンを産生し機能発現の段階になって余分なニューロンを排除していくとすれば,0.1Gy以下の被曝によるわずかの細胞死の増加がただちに機能欠陥につながるとは考え難い。
 今後の重要な課題は細胞の非致死的変化の性格の検索である。

3・3ヒト治療用放射線被曝例

3・3・1子宮内被曝例
 子宮内で高線量放射線を被曝すると,小頭と精神遅滞が成立することは1920年代 から知られ,Murphy(1947)の38例,Dekaban(1968)の26例 の集計報告がある。
 被曝胎齢は大半が20週以前であったが,それ以後の被曝によるものも報告されている。線量の記載のない症例が多いが,高線量被曝児のかなりの数が正常児であった事実から見て,小頭には比較的狭い高感受期が存在するか,幅の広い感受性の個体差が存在することが窺われる。いずれにしても治療用放射線被曝は1940年以前の古い症例が大部分で,線量が不明確のため,リスク評価の資料としての価値が低い。

 診断用X線の胎児被曝の疫学報告は,いずれも線量と被曝胎齢が不正確で,しかも妊娠6月以後の母の骨盤計測や胎児奇形の疑いで検査した例のため,放射線との因果関係は不 明である。

3・3・2幼児期の頭部X線被曝例

 ヒトは未成熟な大脳の状態で生まれてくるため,乳幼児の脳への被曝も大脳発達障害を もたらすことが知られている。
 治療に用いた10Gy以上の高線量の頭部被曝による幼児の脳機能障害の古い記録 があるが,最近の報告では1Gyレベルでも脳機能障害をもたらすといわれる。
 頭部白癬の治療のため脳表面に1.5-1.75GyのX線を被曝した小児は,非被曝児に比べ,IQ値,学業成績,心理 テストの成績が低く,最終学歴も低いと報告されているが,線量-効果 関係は示されていない。
 なお,X線による頭部白癬の治療は1910年-1959年 に欧米 では2万 名以上の小児に適用されたが,1960年以降はまったく行われていない。

3・4広島,長崎の原爆被曝例

3・4・1小頭および頭囲減少
 原爆による推定被曝線量および被曝胎齢と小頭の発現の関係はよく知られているが,リスク評価の点で注目されるのは,広島例で小頭の最 高感受期が胎生8-9週 にある点であ る。
 この胎齢の大脳の発生段階は,マウス胎生13日,ラット胎生15日,モルモット胎生21日に相当し,皮質ニューロンの産生が活発に始まる時期に当たる点はヒトとよく一してい る。

 原爆子宮内被曝児の4例の剖検例のうち,精神遅滞を示さぬ2例と胎生31週に0.01Gy以下の被曝の1例には脳に明瞭な変化はなかった。しかし,胎生12週 に3.75Gyを被曝した1例の精神遅滞児には,小頭,小角膜と網膜形成不全を伴う両側小眼球,大脳側脳室周
辺の広範な灰白質異所形成が認められた。
 灰白質異所形成の存在は,実験動物と同様にヒトでもニューロンの遊走障害が放射線 で起こり得ることを示し,大脳の機能欠陥に関わる形態発生異常の一つとして重要なことを示唆する貴重な例である。

 子宮内被曝児の頭囲測定のデータの再評価では,18歳時の頭囲は線量の増加に伴って直線の低下を示したと報告されている。
 身長も線量に伴って低下するが,身長と頭囲との相関はないといわれる。

3・4・2重 度精神遅滞

 放射線影響研究所のOtake and Schull(1983,1984)
は子宮内被曝児1599例(広島1251例,長崎348例)のうち,重度精神遅滞30例について,被曝線量と被曝胎齢との関連を再評価した。

 30例中18例 は 小頭(平均頭囲-2× 標準偏差)で12例は正常頭囲であった。17歳 までに発見された重度精神遅滞の診断は,IQテストでなく、
 (1)日常の簡単な計算や会話ができない,
 (2)自身で身のまわりの世話ができない,
 (3)独りでは何もできない,
 (4)施設に入所,の臨床所見に基づいて行われた。
 胎内週齢は最終月経の開始日から計算した日数から14日を引き,これを7日で割って算出し,胎児被曝線量はT65DR41)を 用いた。

 再評価の成績は
 (1)胎生7週以前と26週以後の0.01Gy以上の被曝には重度精神遅滞の発現はなく,胎 生8-15週と16-25週の被曝群のみに発現,
 (2)0.01Gy以上の被曝のうち8-15週被曝群の重度遅滞は17名 で,16-25週被曝群4名 の約4倍の発現,
 (3)胎生8-15週被曝群の重度遅滞の線量-発現率関係は統計学的に直線性を示し,しきい値がない直線関係を仮定した場合のリスクは0.4Gy1 報告している。

 本報告は重度精神遅滞の最高感受期が胎生8-15週であることを明らかにしたが,これは前章の動物実験の感受期の知見に一致し,大脳皮質ニューロンの産生と遊走が活発な期 間の胎児大脳が最も放射線感受性が高いことをヒトで実証した点できわめて貴重なデータである。

この報告で国際的に論議の対象となっている点は,最高感受期の被曝における線量-反 応関係の「直線性linearity」である。
このlinearityは データを処理した場合に「linearであると仮定することを統計理論的に否定できない」と解釈すべきで,この論理を放射線防護の立場から便宜的に設定した「確率的stock astic」の区分に短絡させるのは無理であろう。
しかし,本報告はヒト子宮内被曝で低線量域での線量関係が示されている唯一のデータ
であり,放射線防護の関係者にとっては無視できないのも事実である。

 上述のデータに対して問題点とされている主なものは,
 (1)重度精神遅滞の診断は適切であったか,
 (2) 精神遅滞は正常との連続形質で,外的要因の強さに伴って症度が変化する。これを二者択一で正常と重度遅滞に分けて線量-発現率関係を取り上げるのは不適切,
 (3)放射線以外の精神遅滞をもたらす要因について検討は十分なされたか,
 (4)例数が少ないため,被曝線量と被曝胎齢の推定を誤った例が混在すれば統計結果は どうなるか
 (5)放射線の個体発生への影響は単一の病理過程の帰結でなく多細胞現象の代表的な もので,線量-反応関係の直線性を支持する発生生物学的根拠はない。

 ICRP Publ.49(1986)7)とUNSCEAR-1986Report8)は同報告をきわめて貴重なデータとしてその内容を詳細に紹介しているが,線量関係については,「 放射線が胎児脳の発育を障害して知能障害をもたらす過程の複雑性にかんがみ,観察された線量-反応関係の正当性を評価することは困難で,“linearity”は慎重に取り扱うべきである」(ICRP),「 本 データを細胞生物学の立場から説明できる学問的レベルに達していない現状では,“linearity”は一つの観察所見として受け止るべきであ る」(UNSCEAR)とコメントしている。

kameyama1.jpg


3・4・3学 童のIQ値,学 業成績

 放射線影響研究所のSchull and Otake(1986)42)は,原爆子宮内被曝児の10-11歳の学童期に行われた知能テスト(古賀式IQテスト)のデータについて被曝胎齢および被曝線量との関連を分析した成績 を発表している。

 重度精神遅滞児を除く1666名のIQ値データは 表5に示す通り,胎生8週以前と胎生26週以後の被曝では影響は認められず,胎生8-15週と胎生16-25週 の被曝群の平均IQ値は線量増加に伴って低下している。
 このデータから線量-効果関係の形は明らかでないが,高感受期が重度精神遅滞のデータに一致する点から,著者らはIQ値の低下は偶然 のものではないと述べている。

 学業成績は10-11歳時の1091名の学童の国,社,数,理,音,図,体の7科目の5段階評価点が用いられ,7科目相互の間にはそれぞれ高い相関が認められ,胎生8-15週 と16-25週被曝群に放射線量との間に5%水準で有意の相関が認められたと報告している。
 国,社,数,理の評価点が被曝胎齢との関連でIQ値データと同じ傾向を示すのはよいとして,音,図,体 の評価点も連動している点は興味深い。

 ICRP Publ.49(1986)はIQ値のデータを詳しく引用しているが,IQ値低下のリスクには言及していない。
  軽度精神遅滞と正常範囲のIQ値の変異variationには,生物学的要因よりも社会文化的および心理的要因の占める割合が大きい点にかんがみ,線量-効果関係についてはさらに検討が必要であろう。

表5広島,長崎の原爆子宮内被曝児の学童期(10-11歳)におけ るIQ値(古賀式テスト)(臨床的に診断された重度精神遅滞児を除く)

kameyama2.jpg



4.リスク評価について

4・1大脳発達障害のリスク
 これまでのヒト脳発達障害の症例で,線量および被曝胎齢の情報が得られている点でリスク推定の資料となり得るものは広島,長崎の原爆例のみであるが,これとても前章で述べたとおり不確定要素が少なくない。
 しかも,低線量域での精神遅滞の発現を説明できる生物学的知見が得られていない現状 では,原爆例のみから量的リスクを推定することはきわめて難しい。
ICRP Publ.49(1986)とUNSCEAR1986-Reportはともにこの点を強調しておきながら,Otake and Schullの重度精神遅滞のデータの線量-発現率関係より算出した線量当たりのリスクを記載している。

kameyama3.jpg

  ICRP Publ.497)のリスク評価の項の記述の要点は,
 (1)原爆の胎生8-15週被曝群の重度精神遅滞の発現率にしきい値のない直線性を仮定すれば,リスクは0.4Gy-1,
 (2)胎生8-15週被曝群について,観察データに適合する最大しきい値の算出は可能で,0-0.1Gyの間にしきい線量が存在する可能性は否定できない。
 (3)胎生16-25週被曝群のリスクは8-15週被曝群の1/4,〓量関係は線形-2次関数モデルに適合し,0.5Gyより低いところにしきい線量が存在する可能性は否定できない。
 (4)8-15週お よび16-25週 被曝 の両群の小学校学童期の平均IQ値 は線量増加に伴 って低下していたが,線量関係の形は明らかでない。
 (5)胎生8週以前と26週以後の被曝では,重度精神遅滞およびIQ値低下のリスクは0とみなしてよい。

4・2妊婦の職業被曝と胎児のリスク

 ICRP Publ.49では上述の推定にもとついてつぎのようにコメントしている。

 (1)ICRPの職業被曝についての勧告を守れば,重度精神遅滞の最高感受期の2か月間(胎 生8-15週)に胎児は1mSv以上被曝する可能性はなく,1mGy以上にしきい線量が存在す れば胎児へのリスクはないことになる。
 (2)しきい値のない直線性を仮定した場合のリスクは,胎生8-15週4×10-4,胎 生16-25週1×10-4,全 妊娠期間を通 じて5×10-4を超えることはない。
 他方,広島,長崎の非被曝群の重度精神遅滞の発現率は8×10-3と高い。

 上述のリスクについてのICRPのコメントが将来の新しい勧告につながるものか否かは明らかでないが,現時点では,不完全なデータではあるが胎児被曝の新しい知見をふ まえたICRPからの問題提起と受け止めるべきであろう。胎児のための防護基準の設定に向けて,わが国においても積極的な検討がのぞまれる。


 5.おわりに

 大脳は発生の開始より成熟までの期間が他の器官に比べ著しく長く,胎児脳には放射線感受性の高い未分化神経系細胞が長い期間にわたって存在するため,被曝によって損傷を受ける危険期が長い。さらに大脳皮質を構成するニューロンの産生は胎生中期に完了し,以後再生しないため,損傷が修復されることなく生涯残る機能的欠陥をもたらす危険が大きい。

  これが放射線被曝で大脳発達障害がとくに重視されるゆえんである。ヒト胎児被曝による脳発達障害の実例は42年 前の広島,長崎の原爆例以外にまとまったデータはなく,本
編で詳しく紹介したOtake and Schull(1983,1984)の再評価報告はきわめて貴重である。

しかし,被曝線量,被曝胎齢,その他精神遅滞の発現に関与する諸要因の情報が限られてい る。精神遅滞の発現メカニズムの生物学的基礎が確立していない現状で,脳発達障害の量的リスクの推定はきわめて困難といわざるを得ない。

 将来にわたって新しいヒト疫学資料が期待できない以上,この難問の解決への道はやは りメカニズムからのアプローチにまたねばならず,とくにヒト脳の正常発生と動物との比較発生学的研究と,放射線誘発 脳発生異常の細胞レベルの解析が必要である。
 比較発生にはサルを含めての観察が必要であり,基礎的研究では未熟神経細胞の遊走と神経回路網の形成を支配するメカニズムの解析,脳内の情報伝達機構の発達に及ぼす放射線影響の形態学的,生理生化学的アプローチが望まれる。

 中枢神経系の発生,分はライフサイエンスのトピックスの一つとはいえ,高次機能の発達の基礎的知見が乏しい現状では,早急に解決の道が拓けると期待するのは無理であろう。遺伝,発がんの基礎研究で輝かしい実績を持つ放射線生物学が,この分野でも先導的役割を果たすことを期待したい。

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 引用以上 校正と評論の時間がないので、間違いが確認できれば後に校正します。

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