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セキュリティ社会 その1

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 セキュリティ遭難

 以下は、最近起きた実話である。

 昨年末の木枯らし吹きすさぶ深夜、著名な企業に勤める友人は、連日、4時間以上もの残業で年末決算処理に追われていた。
 この会社のセキュリティシステムでは、労務管理通達により、社員が23時までに帰宅する前提になっており、23時を過ぎるとオフィスに厳重なセキュリティロック・システムが作動するように設計されていた。

 だが、彼に課せられていた期限の迫った仕事は、23時を過ぎても終わりそうもなかった。彼は机の周りに、すべての荷物を置いて、尿意を催してトイレに立った。
 トイレから事務所に戻ったとき、その扉が開かないことに血の気が引いた。ロック解除カードも机の上だ。セキュリティシステムを忘れていた自分の迂闊さを責めたが、時はすでに遅いのだ。

 上着も財布も携帯電話も、車のキーも、家の鍵すらも、すべての荷物が机にある。ロックが解除されるのは、明日の9時以降でしかない。
 今は着の身着のまま、外は寒風吹きすさぶ凍るような冬の街路。
 助けを呼ぼうにも、ビル内には誰も残っていない。保安担当もいない、電話も通じない。監視カメラが録画しているだけで、担当者が駆けつけてくることはない。

 歩いてゆける近くに知人はいない。電話さえできない。寒さから身を守る術さえない。
 「どうしたらいいんだ・・・」
 途方に暮れながら、必死になってポケットを探ると、そこに小銭で250円あった。だが250円で何ができる。終夜営業のレストランに入っても、250円で買えるものなどない。
 「待てよ、250円・・・・」
 そのとき、まだ終電のある電車で250円区間のところに兄が住んでいることを思い出した。寒さをこらえて終電に乗り、兄に救いを求めに向かった。
 
 バス賃もないから、相当に歩きて着いた兄の家に、幸い兄がいた。
 1万円を拝借してタクシーで一人暮らしの郊外の家に帰ったものの、今度は家の鍵もないことを思い出して絶望的な気分に襲われた。田舎の一軒家なので、泥棒避けに頑丈な鍵や防犯ライトなどセキュリティが敷いてあるのだ。
 玄関前で、寒さに震えながら途方に暮れた。そのとき、そういえば新しいテレビアンテナ線を通すために鍵を閉められない小さな出窓があったことを思い出した。
 そこで、必死にその窓をこじ開けて、無我夢中で中に入った。
 ようやくストーブに暖まることができ、命が助かったというところで、この恐ろしい物語は一件落着したわけだ。

 ちなみに、彼はこのロックアウトが実は二回目であった。前回は真夏だったので会社で朝まで待っても凍死することもなく、問題を甘く見ていたのだ。
 だが、もし、これが氷点下の猛吹雪のなかで、ポケットに250円がなかったなら、本当に命の危険に見舞われていたかもしれない。

 これは「セキュリティ遭難」とでも名付けるべき、現代社会における新たな遭難災厄なのである。
 その実態が調査されたなら、驚くべき恐ろしい現実が明らかになるかもしれない。ことによると、交通遭難や山岳遭難に次ぐような一大遭難事案になっているかもしれないのである。

 この例と同じでなくとも、似たような経験をされた方は少なからずいるはずだ。
 筆者も、鍵を持たないまま家のドアを迂闊にロックしてしまい、中に入るのに四苦八苦したことが何度もある。
 鍵を無理矢理こじ開けて壊してしまったこともある。筆者宅は自作の木造バラックでなので破壊も復旧も簡単だが、今の厳重な鋼鉄製ロックシステムは、素人が簡単に突破できるような代物ではないのだ。
 素手で突破侵入できるようなものではない。おまけに、無理に壊せば後でとんでもない復旧費用がかかる。
 深夜、こうしたセキュリティシステムによって、会社にも家にも立ち入れないで彷徨い、カネもなくて、どうすることもできず。ときに凍死してしまうような恐ろしい事件は、どうも決して少なくなさそうだ。

 昔なら、こんなありふれた失敗は問題にもならず、単なる笑い話ですんでしまった。日本中どこでも近所つきあいは濃密で、困ったときは近所の人をたたき起こせば、それで解決できたからだ。
 だが、今は違う。三軒隣のご近所さんの顔も一度も見たことがない人だって珍しくない。コミュニケーションなど存在せず、連帯感を確かめ合う場もない。だから、誰も助けてくれないのだ。

 今後、場合によっては、警察や消防が「セキュリティ遭難救助隊」を結成しなければならないかもしれない。昔なら、ご近所のつきあい、連帯が、こうした、ありふれたミスを簡単に解決したものだ。
 だが、人間疎外の進んだ今では、こうした問題は、役所の仕事になったかもしれないのである。セキュリティに追放された遭難者を助ける避難所が必要になっているのかもしれない。

 家はたくさん建っている。しかし、顔も知らない隣近所の連帯がないのだ。友人だって、毎日数時間の残業を強いられ、帰宅するのは深夜、家では寝るだけで早朝出勤しなければならない。とても町内の分担仕事などやっていられない。
 だから、町内会のゴミ捨て場にゴミを捨てることさえ拒否される事態になっていた。捨てた郵便物から足がついて、「捨てるな」と通告されたのだ。
 ゴミを庭先で燃そうとすれば、たちどころに消防に通報され消防車がサイレンを鳴らして飛んでくる。
(実は、中津川市蛭川の山奥に住む筆者でさえ、庭で落ち葉を燃していると、近所の別荘に住む夫婦が消防に通報する (>_<) )
 こんな関係のご近所様に、どうして深夜の救援を求められようか?

 筆者らの若い頃を思い出してみると、ご近所の出番を待つまでもなく、こうしたセキュリティシステムを設計運用する上で、「フールセーフ」の考え方が、もっと強く意識されていたように思う。
 人間は、もともと「信じられないほどアホ」なのである。想像もつかないような初歩的な失敗を繰り返すものだ。この真実を、みんないやというほど思い知らされていた。
 だから、「システムというものはアホを前提にしなければうまくいかない」という真理が広く理解されていたと思う。
 昔の人は、自分だって、しょっちゅう失敗するのだから、誰だって失敗するさと鷹揚に考え、どんな信じられないミスをしても当然と考えて、こうした設備を作ったものだ。

 それに、昔なら警備員が巡回して手動でロックしたわけだから、そうした失敗は起こりにくかった。だいたい、23時ジャストで自動的にロックアウトされ、どうすることもできなくなるオフィスなんて、ありえなかった。
 人間は、そんなシステムに順応できるほど利口にできていないのである。人を何様と心得ておるのか(怒)

 商品の世界では、「フールセーフ」の思想を念入りに実現しなければ、いまや失敗によって損失がでたとき訴えられてしまう。
 だからストーブや電化製品など危険性の予測される商品には、過剰なほどのフールセーフシステムが設置されていることが多い。
 冒頭に上げたセキュリティシステムも、死者が出て訴訟を起こされたなら、きっと、もっとフールセーフ機能に気を遣うことだろう。
 しかし、現実は、人々が、人間の実態を無視した厳格なセキュリティシステムに追い立てられ、はじき出され、人を振り落としながら勝手に暴走するシステムについて行けなくなっているのだ。

 どうして、これほど非人間的なセキュリティシステムが大手を振って席巻するようになったのか?
 そして、こうしたシステムが、人間の完全な行動を前提にしてしか作動せず、何かの間違いが入り込むと、とたんに、もろくも、全体がマヒしてしまうような、お粗末な設計ばかりに変わってしまったのは、いったいいつ頃からなのか?

 つい最近、以下のような事件が起きた。

 【[ワシントン 3日 ロイター] 米ニューアーク国際空港のターミナルCが3日、セキュリティー上の問題で閉鎖された。同空港はニュージャージー州内に位置するが、ニューヨーク市からも近い。CNNが米運輸保安局(TSA)の話として伝えた。
 それによると、ある男性がセキュリティー検査を受けることなく誤った場所から出発エリアに入ったことが分かったため、ターミナルが閉鎖され、検査済みの乗客も再検査を受けている。 リスボン行きの便への搭乗を待っていたトロント出身の旅行者によると、ターミナル内はセキュリティー検査を待つ2000─3000人の乗客でごった返しているという。 同ターミナルはコンチネンタル航空が使用しているが、CNNによると、現時点ではすべての出発便が止まっている。 】

 【ニューヨーク時事】米ニューヨーク近郊のニューアーク国際空港で3日、不審者情報によりターミナルが一時閉鎖された事件で、警察は8日、監視カメラに写っていた男(28)を不法侵入容疑で逮捕した。 ABCテレビ(電子版)などによると、男はニューアークに近い自宅で拘束された。その際、カメラに写っていたのは自分だと認めたという。 ニューアーク空港の不審者騒ぎは、クリスマスに起きた米機爆破テロ未遂事件の直後で、当初は緊張が走った。しかし、7日に公開されたカメラ映像では、男が空港内の警備の目を盗み規制線を越えて親しい関係にあるとみられる女性搭乗客とキス。そのまま一緒に出発エリアに入り込んだことが分かっていた。】
 
 結局、この「犯人」は中国人の若者で、彼は逮捕され罰金五万円が課せられることになった。
 この事件こそ、アメリカで911事件以降、恐ろしいまでの非人間的セキュリティシステムが強要されるようになった現実を端的に示している。
 責められるべきは勝手に持ち場を離れていた監視保安員のはずだが、なぜか、中国やアメリカでは、「犯人」に対する激しい非難が巻き起こっている。

 社会不安や矛盾を、真正面から原因を探って解決する姿勢ではなく、法律や規則を厳格に定めて、それを破った者を厳罰に処すことで秩序を作ろうとする思想が、911以降、アメリカ・中国・日本などで大手を振るようになった。
 これらの厳罰主義の国に共通するものは「死刑制度」である。個人の間違いを絶対に許容しない。間違えば制裁するという思想であって、人が間違うものだという「人に対する優しさ」が完全に欠落しているのが特徴だ。

 こうした優しくない国家群で、冒頭に述べたような民衆に対する締め付け、規則の苛酷化、厳罰化が急激に拡大している現実を認識しなければいけない。

 いったいなぜ、こうなってしまったのか?

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