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2009年1月30日 灰色のバス

カテゴリ : 無題

 ● 灰色のバス

 ヒトラー・ナチズムが行ったのはユダヤ人大虐殺だけではない。その思想的根幹は「偉大なドイツに役立たないものは抹殺する」という合理化思想であった。ナチスは「国家のために役立たない、美しくないものを処分」するという発想を徹底し、当時、欧州から「汚い金貸し」と憎まれていたユダヤ人とともに、あらゆる犯罪者、障害者、精神疾患者などを皆殺しにしようとした。

 ナチスは1930年代末頃、T4と称する作戦行動を行った。政策機関はアドルフ・ヒトラーによって設立され、ナチ党官房長(Leiter der Kanzlei des Fuhrers)のフィーリプ・ボウーラー(Philipp Bouhler)と親衛隊医官のカール・ブラント(Karl Brandt)の下、精神科医のヴェルナー・ハイデ (Werner Heyde)とパウル・ニッチェ(Paul Nitsche)によって行われた。
 これは、ドイツ国民の“遺伝的な純粋性”を守るためのものであり、また身体障害者や精神障害者を組織的に根絶するというものであった。障害のある子供たちは家族から引き離され、特別な病院に入れられた。障害を持つ成人に関しては、すでに "Law for the Prevention of Hereditarily Diseased Offspring" の結果として強制的避妊の対象となっていたにもかかわらず、この政策の対象となった。
 未来に障害を伝播させる遺伝子を抹殺するという優生学的見地から行われたものだが、実質は身体・精神障害者をガス室で抹殺するというものだった。全国のカトリック障害者施設に、用意された灰色に塗られた冷暖房付きの快適なバスが到着し、行き先も告げられぬまま障害者を収容し、ハルトハイム城に連れ込んだのだ。
 そこにはアウシュビッツと同じチクロンガス室があり、そこで分かっているだけで26万人のドイツ人障害者が殺害された。
 このT4作戦は、1941年8月にヒトラーの命令で中止となった。理由は、ヒトラーの親族であった障害者が殺害されたことを彼が知ったからだと言われる。

 「役に立たないものは抹殺する」
 これは合理化を賛美し、効率化こそが正義だと信ずる人たちの共通する信条である。ドイツは、デカルト以来、こうした合理思想の殿堂であった。合理化・効率化を良いことだと無批判に受け入れる人は必ず、その対象がモノや行程だけでなく、人にも及ぶのである。
 「役に立たない人を抹殺する」
 世界の合理主義、ファッシズムは、100%必ず、この思想の罠にはまってゆくのである。金儲けだけを至上命題として存続する資本主義企業もまた、同じように合理化の罠に陥り、役に立たない行程、モノ、そして人を切り捨て、最期に一番役に立たない自分自身をも抹殺する運命に至るわけだ。
 26万人(実数は、この数倍とされる)の障害者を「美しい合理的なドイツ国家」のために抹殺したナチス・ヒトラーもまた、一番役に立たない自分自身をも抹殺する運命に至った。
 だから我々は、安倍晋三が「美しい日本」と言いだし、合理化・効率化を掲げたとき、真っ先にヒトラーとナチズムを思い浮かべるしかなかった。

 そこで死刑制度を考えてみよう。これこそ、上に述べた合理化思想の極致である。「人間社会に役立たない悪質犯罪者を抹殺せよ!」という要求に基づいて死刑制度が存在している。
 「役に立たない有害なものを処分せよ」という合理化への幻想こそ、実は死刑制度を根源から支えている思想なのである。もちろん、本当に役に立たないものなど、この世に何一つない。すべてのものが、必然の論理によって登場してくるのであって、すべてのものに自然や社会を支える意味があるのだ。かつて、有害無益とされて切除処分が正しいと信じられていたもののなかに、今となっても、やはり処分が正しいと証明されているものが一つでもあるか、よく考えてほしい。

 例えば、切除処分の典型といえば、体のなかでは扁桃腺と盲腸だ。いずれも30年前までは、何一つ役に立たない無用の長物であって、切除だけが正しいと考えるのが医学の常識だったではないか。ところが今ではどうだ? 扁桃腺も盲腸も、人間の免疫に関係した大切な臓器であって、これを切除してしまったら、人の免疫力が低下し、腎臓障害などさまざまな疾患を引き起こすことが知られるようになり、今では、ほとんどの医者が切除など考えない。
 障害者に対する考え方も、40年前までは、基本的に無用の厄介者と思われ、多くの医師が、ダウン症など先天障害新生児を母親のためと称して勝手に殺害していた。ライ患者が妊娠したなら、有無を言わさず殺害し、誕生しても、殺害してホルマリン漬けにするのが医学の思いやりであり常識だったではないか? 
 だが、今ではダウン症児童の親たちは、決して無用の厄介者だとは思わない。障害を持った子供たちは、親たちに無限・無償の愛情を育んでくれる天使なのだと理解されるようになった。障害児には、この社会で障害児しか果たせない素晴らしい役割があることが理解されはじめたのだ。

 この意味では、かつて鼻つまみだったヤクザやチンピラだって、この社会を底辺で支える役割を持って登場してくることが指摘されはじめている。同じように、死刑判決を受けるような犯罪者だって、実は、この社会を根底において支える特別な役割を担っているのだ。個人の人生を踏みにじることを肯定しているわけではない。しかし、犯罪は社会が産み出した毒素であって、それは社会を治療する薬にもなるという真理を理解する必要があるのだ。
 この世には、どんな無駄、有害に見えても、よく調べてみれば、実は社会を適正に運営し、支えるために登場してくる要素である場合が多いのだ。盲腸や扁桃腺だって、一見有害無益に見えても、実は人間の体を根底において支えている器官なのだ。犯罪者、ヤクザや死刑囚だって、この社会を支える大切な役割を担っている。

 問題は、過ちを犯したとされる彼等に対する我々の姿勢である。はたして、かつての医学がそうであったように、扁桃腺のように切除するだけでよいのか? 悪事を働いたからといって殺害処分すればいいのか? そうして悪事を働く、すべての人を処分したならば、本当に善人だけの住みやすい社会が来るとでも思っているのか?
 2ちゃん、あたりにたむろする、報復制裁を喜ぶ面白半分の死刑支持者たちばかりの社会が、本当に住みやすい、素晴らしい社会だとでも思っているのか? もし、そう思うなら、死刑制度支持者、報復制裁支持者ばかりで社会を作って一緒に住んでみればよい。
 それは、おそらく阿鼻叫喚の地獄になるだろう。人を攻撃しあい、制裁報復しあい、すべての責任を他人に押しつけて自分を正当化したがる人間のクズしかいない社会だ。それは間違いのない地獄である。2ちゃんねる死刑支持者たちは地獄の住人なのだ。

 我々が、子供たちに明るい未来を用意してあげようと願うなら、それは決して報復制裁の社会ではない。人は必ず過ちを犯すものであること。そうして間違えた者に対しては、制裁するのではなく、間違いを正し、教育する姿勢が必要なのである。そうした教育の姿勢だけが子供たちの明るい未来を保証するのだ。
 死刑制度によって、間違えた者に報復し、処分するという愚かな姿勢の行く末な何か? それが冒頭に述べた「灰色のバス」だと筆者は繰り返し指摘している。

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