FC2ブログ

少し外れた社会

 

 記憶では1980年代の半ばだったような気がするが、正確な日付は覚えていない。
 当時、私は年間50回以上、ほぼ毎週のように山歩きをしていたが、冬場は、鈴鹿の御池岳周辺と中央アルプスの越百山周辺をマイゲレンデにして歩いていた。

 このとき、R19号、大桑村の伊奈川橋から越百山登山口に行くと、毎週のように外車が停まっていた。
 私は、「これは、おそらく暴力団がチャカ(ピストル)の射撃テストに来てるんだろう」と思った。
 その車は、南駒ヶ岳と越百山の二カ所の登山口があるうちの、いつでも越百山の登山口近くに停まっていた。おまけに季節は12月~5月の積雪期だけだ。

 一人で登ってゆくと、かなり深い雪のルート、2500mの稜線付近で、その人物と数回すれ違い、挨拶を交わした。

 日に焼けた精悍なマスク、敏捷な身のこなし、鋭い目つき、その人物は、確かな足取りで早足で歩いていた。
 私には、彼がヤクザに見えた。「なんでヤクザが冬山にいるんだ?」

 ここで出会ったのは一回だけではない。少なくとも三回くらいは出会っている。彼は、冬になると中央アルプスの、人気のない、この山に来ているらしい。
 それで、登山口に停まっている外車の謎が解けた。

 1990年頃、私は名古屋市大門の某タクシー会社で働いた。
 そうして、無線配車で弘道会本部に迎えにいって、その人物と再会を果たすことになった。
 もっとも、彼であると分かったのは、ずいぶん後のことだが。

 彼は、当時、弘道会の組長だった。そして、後に、山口組六代目組長になる司忍こと篠田正浩氏であった。
 司組長は、酒も飲まずタバコも吸わず、ひたすら冬山登山や水泳で体を鍛えることに熱中するストイックを絵に描いたような人物だったのだ。

 タクシーを呼んだときの彼の姿勢は、上から目線はまったくなく、いつも、とても優しく、チップをはずんでくれた。
 私は、いつでも大声で「ありがとうございます」と言う癖があったから、彼は気に入ったようだった。
 人間性は、まるで高倉健が映画から出てきたようであった。
 
 タクシー商売というのは暴力団と関係が深い。とりわけ「大門遊興街」を抱えた名古屋市中村区は「暴力団の巣窟」とでもいうべき密度の濃さで、私が通った小中学校でも、大門ヤクザ関係者は一大勢力で、イジメなどの問題を起こす者が多かった。

 タクシー時代、会社の近所の喫茶店で、同僚のシャブ=覚醒剤の売買現場を目撃したのも一度や二度ではない。タクシーやバスの運転手は、客乗中は絶対に眠れないので、シャブに手を出す者が少なくなかったのである。
 だからタクシー運転手と暴力団は、裏表のいずれでも関係ができてしまう。

 おおむね暴力団は、本当に困った連中で、業務中に、どれほどひどい目に遭わされたか、思い出したくもないほどだ。
 後ろで怒鳴り散らされるなど序の口、ときには首筋に刃物をつきつけられたりした。ただし、こんなのは暴力団ではなく、フリをしたチンピラであったが。

 そんななかで弘道会の若衆だけは別格だった。ウソのように礼儀正しく、彼らが暴力団などとは、まったく信じられなかった。
 司組長が、どれほど若衆に厳しく教育していたかが分かった。
 運転手に迷惑もかける者も皆無だったが、一人だけ例外がいた。

 彼は、出入りで3人斬り殺し、出所してまもない頃だった。
 ちょうど人相は、ドジャーズの前田健太によく似ていた。
 マンションまでお迎えに行き、弘道会事務所まで毎朝送るのだが、下車時、かれは、いつも千円札を投げてよこした。これで釣り銭くれてやるとの意思表示だったのだろう。
 何十回も送迎し(他の運転手が嫌がって無線をとらなかったので私がよくとった)わけだが、顔見知りになる頃には失礼な態度も消えて、世間話をするようになった。

 中学時代、私より一級下だが、生徒会長までやったスポーツ万能のO組の息子がいたのだが、彼が長じて「二丁拳銃のO」と呼ばれ、名古屋のヤクザ界では、その名を知られた人物になったこと。
 Oが人妻と禁じられた恋をして、陸橋から飛び降り自殺したこと。
 同級生のいじめっ子=どれだけひどい目に遭ったか分からないほど最悪だったYが殺人で無期懲役刑に処せられたことなど、子供の頃から顔を知ってる彼らの、驚くような情報を教えてくれたのも彼だ。

 たくさんのヤクザを客として乗せて、世間話をしたり、打ち解けた者とは飲みにいったりするうち、とても、ここには書けないような恐ろしい話もたくさん聞いた。
 みんな、糞真面目で口が固いのだが、ひとたび打ち解けると、堰を切ったように自慢話や誰も知らない恐ろしい裏話が出てくる。

 ヤクザとの付き合い方には、厳格なルールがある。
 それは「筋を通す」ということ。どんな筋かというと、「相手の顔を立てる」ということである。つまり、彼らの社会を厳格に規制する規律というのは「見栄とメンツ」である。
 まるで儒教社会そのままだ。ヤクザ社会は儒教を規範としているのである。逆に北朝鮮も、またヤクザ社会であるといえよう。

 彼らの立場を失わせるようなことをいえば、たちまちこの世から消されることになる。何回か「殺す」と言われたことがあるが、彼らは、自分たちが特別な世界にいることに誇りを持っているように思えた。人を殺して刑務所に行くことも、「筋」さえ通っていれば、それは人生の誇りだったのだ。
 一般人が震え上がるような世界こそ、彼らのプライドだったのだ。

 名前は言えないが、ある中高年のヤクザと仲良くなったとき、タクシーの中で背筋が凍るような情報を聞いたことがある。

 それは、大門の遊郭店などで、店で暴れたりした客の始末が彼らの主な仕事だったのだが、袋叩きにして死んでしまうことも、決して希ではなかったそうだ。
 もちろん警察に届けることはない。遺体は、完全に消えてしまうのである。
 その秘密をちらりと聞いた。

 実は、秘密の遺体処理の専門業者がいるのだという。どこにいるかというと三河湾の幡豆という漁港にいる。
 ここは、日本一の密漁船漁港で、数百隻の密漁船が違法操業のため、ここから出港してゆくことで知られている。その大半が暴力団組員である。

 歓迎せざる遺体が出ると、深夜にトラックに乗せられ、午前3時頃に漁港について、餌や網などの漁業具とともに船に乗せられる。
 それから伊勢湾や熊野灘などの水深の深い場所に、コンクリートをつけられて沈められるのである。目撃者などいないので、完全犯罪である。
 始末料は、おそらく数十万円程度だろう。もちろん企業秘密だから教えない。これは一つのビジネスとして定着しているのだという。

 そこで、こうした航路の浚渫船には必ず、所轄署の刑事が乗務している。上がってくるコンクリートを探すためである。
 それでも浚渫の対象にならない深い海域では、潜水艇で綿密な調査をしない限り発見するのは無理だ。

 私も、若い頃、結構ヤバい仕事をしていたので、さまざまな背筋の冷たくなる現場に遭遇した。
 例えば、ビルの建築現場で、基礎から血がにじみ出ているのを目撃したことがある。そこにいた関係者は「人柱」と言った。1970年代はじめのことだ。
 当時は、まだ過労死だとか人権感覚の概念などない時代だったので、現場で死んでしまう者など珍しくもなかった。
 私も、不完全な足場から墜落した職人が、もだえ苦しむのを、落ちたその場で目撃したこともある。

 ダム工事など、凄まじいもので、例えば佐久間ダムなど、1950年代の工事だが、交通機関のない山奥で、医者もなく人家もなく、タコ部屋というヤクザによる強制労働のシステムがまだ幅を効かせていた頃だが、毎晩のように部屋では博打が行われ、刃傷沙汰も普通に起きていた。
 歯止めのない場所だったので、毎日必ず死者が出た。

 これも、現場監督の指示で、みんなダムやトンネルのコンクリートに埋めてしまったそうである。
 私の知人が、佐久間ダムの現場で業者として入っていたので、彼から、かなり詳しく聞いたが、常人がまともな神経で聞いていられるようなものではなかった。
 なお、ここでは今でもトンネルで幽霊が出るという。一部のトンネルでは工事中に、壁からたくさんの人骨が出てきたという。

 http://www.asyura2.com/15/genpatu44/msg/824.html

 私も、若い頃は一人でロッククライミングしたり、アルプスの沢に入って三日がかりで登って降りてきたり、ずいぶんと危険な冒険を重ねたので、ある程度、度胸もついた。
 滝で転落して、全身四カ所骨折して命からがら逃げ帰ってきたこともあり、おかげで、人が殺されるくらいの情報でうろたえることもないが、逆に、不感症になりすぎて、このような話を聞いても心を動かされることはない。

 それでも、私に対して、人間としての基本ラインを超えた誹謗中傷を平然とできる者に対しては、驚かされている。ヤクザは、一線を超えるときは、死を覚悟するときである。

 私の経験では、このような誹謗を平気でできる人間は、必ず殺されるのである。万が一にも寿命を迎えることなどできない。彼らは何をどうすると人が限界を超えるのか、おそらく知らないのだろう。
 若い頃から、本当の修羅場をくぐったこともなく、ゲーム感覚で一線を越えてしまうのだろうが、やがて植松聖や白石隆浩のようなことになるのだろうか?
 たぶん、その前に、深い海の底で眠りにつくことになるだろう。

hibou8.jpg


  

コメントの投稿

非公開コメント

No title

昔、TVCMで、「タコが言うのよ。タコが~~。」と言うのが有った。
私は、そのタコが海の八本足の生き物の事と思い全く意味が解らなかった。
知人はそのCMを話題にし、家族で相手をののしる時に、「このタコーー!!」と、言うと言っていた。
いま、CMと知人宅で使われていたタコと言う言葉は、タコ部屋で人間らしい存在を一切奪われた人を表す言葉だったんだろうと、気が付いた。
人を人とも思わない、冷酷・残酷な人たちが、CMを作り流し、隣にいたわけでしょうか?
人柱の件にしても、現実とはなかなか思えないが、福島第一の原発事故の事を知るにつけ、有りうるかも・・・と、思い始めた。
貴重な情報です。
知らないで居れば、そういう事が続くでしょうが、白日の下に晒されれば、塩をかけたナメクジみたいになるのでは、と思います。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
プロフィール

tokaiama

Author:tokaiama
ツイッターのアカウントは、原発運転による健康被害をとりあげた途端に永久凍結されました

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
ブロとも一覧

また、あした♡

~卓球・日本式ペンの繁栄~Byベル
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
その他
6位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
その他
6位
アクセスランキングを見る>>
フリーエリア
カレンダー
07 | 2018/08 | 09
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

アクセス
現在の閲覧者数:
フリーエリア
アクセスカウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード