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 山に死す

 5月21日、エベレスト登山中だった 栗城史多君が死んだ。
 同時に、数名のベテラン登山家がヒマラヤで死亡しているから、特別な悪天だったのだろう。

 彼は、私の息子くらいの世代ではあるが、思えば、私の世代は山の好きな者が多くて、本当にたくさんの山屋(我々は登山家などと呼ばない)が山で死んでいった。
 まるで山で死ぬことが人生のステータスであるかのように思っていた者が多かった。山屋が畳の上で死ぬのは恥ずかしいことだったのだ。

 名前を思い出しただけでも、小西政継、植村直己、長谷川恒男、加藤保男、山田昇、尾崎隆、禿博信、みんな私に近い世代で、当時、名の知られた山屋で、今でも生き残ってる人物を探す方が困難だ。
 生きてれば70歳前後が多いだろうか?

 欧州ではラインホルト・メスナーが生き残ってると思うが、彼も兄弟や友人たちの大半を山で失っているはずだ。

 なんで山で死ぬのだろう?
 彼らにとって、山は死場所なのだ。みんな、死地目指して向かってゆく。自分から棺桶に入る。
 逆に死なないような山ならば、彼らは決して近寄らなかっただろう。

 私は彼らの実情を知っている。困難なクライムを成し遂げて大きな名声を得ても、内実は借金だらけ。レストランなど入ったこともない者が多かった。酒と言えば安い焼酎ばかり、登山は、ひどく金のかかるスポーツではあるが、金にならなかった。

 私も30歳代の頃は、年間50回以上、山に入り浸り、休日に自分の部屋にいることが耐えられなかった。だから貯金など、できるはずがなかった。
 ある程度、ベテランの域に達して、登山の基本が身についてくると、どんどん困難度の高い山に挑戦してゆく。中途半端に妥協することが苦痛だったのだ。

 最初は、深田百名山あたりを目標にしていたが、そんな程度では面白くない。「血が騒ぐ」のだ。
 「アルプスへ!」

 私は金がなかったから、外国遠征などできなかったが、代わりに、一人で厳冬のアルプスや、山頂まで三日もかかるような南アルプスの沢登りに向かった。
 一週間以上かけて3月の中央アルプスを縦走したこともある。アルミスコップを持参して、夕方になると雪洞を掘って、羽毛服とシュラフカバーだけで寝た。
 腰までの積雪をスノーラケットで突破し、何度も滑落しそうになりながら、顔中、火傷のようになって、ひたすら歩き続けた。

 思い出せば、あれはもう「薬中」だ。アヘンやシャブの中毒と同じで、山の空気を吸って歩き続けていないと、苦しくて耐えられないのだ。

 なんで、山に行きたいか? といえば、都会の空気が嫌だということも大きい。単純に都会は汚れていて、山に行けば清浄な空気が吸える。
 もう少し、深く考えてみれば、都会のウソにまみれた人間関係や虚飾が嫌なんだ。

 上司だ部下だ、天皇だ平民だ、官僚だ住民だ、なんとか大卒だ、無学歴だ、同じ人間にすぎないのに、こんな反吐の出るようなウソで固めた秩序の下で暮らすのは息苦しいなんてもんじゃない。本当に嫌なんだ。
 人間の本当の実力でもない、屁理屈や虚飾に頼りたがる者を見てるだけで腹が立つ。山には、そんな連中はいなかった。

 山はウソをつかない。山には真実しかない。汗と、自然と、清澄な大気と、動物たちと、大空の彼方の天の川と、一つもウソがない、本物しかない。
 山に行ってまで、上司だ、先輩だ、なんてウソの世界を引きずっていたくない。だから私は、山岳会などの組織には近寄らず、いつでも一人で山を満喫した。

 沢登りもロッククライミングも、冬山も、山スキーも全部一人で覚えた。だから失敗も多くて、滝から転がり落ちて全身数カ所を骨折して這いずるように帰宅したこともある。
 岐路のバスの乗客も、帰宅後、訪ねてきた母親も、全身傷だらけの私を見て真っ青になっていた。
 厳冬の御嶽山の山頂からスキーで滑り降りて、アイスバーンで転び、ハイマツ帯に突っ込んで助かったこともある。
 それでも一人がいい。

 私がゲレンデにしていた、鈴鹿御池岳の大雪原を独り占めして、スキーで歩き回るときの爽快感。
 誰一人出会わない深い沢の奥の景色、山頂からの見渡す限りの眺望、こんな宝物に囲まれて、どうして不快な圧迫感に満ちた都会にいることができるだろう。

 山に行ってまで、ワンゲルや山岳部のシゴキを目にしたときは不愉快千万で、なんで、そこまでして組織に依存したがるのか不思議だった。静かに一人で、誰にも邪魔されずに山を味わえばいいじゃないか?
 山は、誰にも左右されずに、自らのすべてを叩きつけることができる場所であり、死を受け入れてくれる場所でもあった。

 こんなことを書いてると、また馬鹿なツイッター社の管理員たちが「自殺幇助」と騒ぐのだろうか?
 ツイッター社は、自死権を否定するなら、オランダ・ルクセンブルグ・スイスなど自死権容認国の業務を今すぐやめろ!
 人には、自分の人生を左右する権利がある。死まで国家の思い通りにされてたまるものか! 山は何も言わずに自死を受け入れてくれる大切な場所でもある。

 数年前に間質性肺炎をやってから、酸素代謝能力が全盛期の半分に落ちてしまった。五合目から富士山に二時間で登った、あのパワーは、もう二度と戻ってこない。
 しかし、それでも、歩いて行ける近所の笠置山に週に数回は登っている。本当に苦しくて、蒸気機関車のように激しく呼吸しながら、二時間程度のルートを歩いている。
 私にとって、山の空気を吸えるだけで、たまらなく幸せなんだ。どんなに苦しくとも、行かずにはいられない。

 このブログにも、私の若い頃の山行記録の一部を掲載している。青春を山に捧げたような私で、結婚もできない落ちこぼれではあるが、何一つ後悔はない。
 もう人生も黄昏れていて、いつくたばるかもしれないが、私の人生で何が良かったかといえば、日本全国、二千回を超える山歩きができたことだ。

http://tokaiama.blog69.fc2.com/?all

 日本という国に生まれて、たくさんの素晴らしい山があって本当に良かった。
 栗城君も、死に臨んで、何一つ後悔などなかっただろう。
 決して長くはないが、幸せな人生だった。私も彼のように逝きたい。

http://blog.livedoor.jp/hirukawamura/archives/2143495.html

http://blog.livedoor.jp/hirukawamura/archives/2149175.html

 南アルプスの、黒木の森の奥深く、誰にも邪魔されないで、誰にも迷惑をかけないで、木々が朽ちるように、虚飾のない自然な死を迎えることが私の願いなのだ。
 財産などない方がいい、家族などいない方がいい、評価などされない方がいい、誰にも自慢する必要もない、ただ動物たちが朽ちてゆくように、骨になり、骨も溶けて再び木々となり、あるがままに、なすがままに、次の人生につながればよい。

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Re: 同感です

> 初めてコメントします。
>
> 読ませて頂きましたが、栗城さんの死に関しても、死生観に関しても同感です。
>
> 自分語りになり恐縮ですが、私には10代の頃から40年来続けているフィールドワークがあります。
> 学者でも研究者でもありません。
> ただそれをせずにはいられず、最上の歓びを感じ、その歓びこそがすべてです。
> いつか来るであろう死は、できるならそのワークの中で静かに迎えたい。
> 切にそう願っています。
>
> 事後報告になりますが、こちらのブログをツイートで紹介させて頂きたく思います。
> もしお困りでしたら、お手数ですがご返信でお知らせ下さい。

 ありがとうございます

Re: No title

> 「独りファシズム」を運営しております秋嶋亮(旧名・響堂雪乃)です。いつも貴重な情報をありがとうございます。実は今月25日に僕の新刊が出るのですが、もしよろしければ献本したいと存じております。差し支えなければご住所をお教え願えないでしょうか?出版社より発送致しますが、個人情報は厳重に守らせて頂きます。ご検討よろしお願い致します。

ありがとうございます 嫌がらせが多いため、個人情報は控えています

No title

山登りの熱い思いが伝わってくるおはなしが見られて感激しました
わたしは都会っ子なので自然とむきあう経験がとぼしくかんがえさせられます
アーダルベルト・シュティフターという作家の書いた小説をよんでみてはどうですか
森を旅する話とか、味わいぶかいです
なにも起こらない、退屈な話と言われていますが、哲学者ニーチェが称賛する作家なのです
かってなことを書いてすみません

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同感です

初めてコメントします。

読ませて頂きましたが、栗城さんの死に関しても、死生観に関しても同感です。

自分語りになり恐縮ですが、私には10代の頃から40年来続けているフィールドワークがあります。
学者でも研究者でもありません。
ただそれをせずにはいられず、最上の歓びを感じ、その歓びこそがすべてです。
いつか来るであろう死は、できるならそのワークの中で静かに迎えたい。
切にそう願っています。

事後報告になりますが、こちらのブログをツイートで紹介させて頂きたく思います。
もしお困りでしたら、お手数ですがご返信でお知らせ下さい。

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